大判例

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福岡高等裁判所宮崎支部 昭和29年(ラ)1号 決定 1954年2月22日

抗告人 赤畑太郎

抗告人 赤畑ツネ

主文

原審判を取消す。

抗告人等の氏「赤畑」とあるを「吉田」と変更することを許可する。

理由

本件抗告理由は之を要約すれば抗告人等は「赤畑」なる氏を称え来つているつもりであるが抗告人等の氏「赤畑」の訓が共産党の機関紙「アカハタ」又は危険信号の赤旗と相通ずるものがあるので中学校に在学中の抗告人等の子弟は学友等から「共産党赤畑の共産党」と揶揄され登校を厭い学業成績の低下を来たし既に長じたる抗告人等の子弟は其の為にのみ希望の就職を阻まれ辛じて他に就職し得ても其の職務の遂行に少なからざる不便不利を被り居り斯る状態は直に解除し難い事情に在るから抗告人等の氏「赤畑」を抗告人等の母の実家の氏「吉田」に変更することを許可せらるべきであるから抗告人等の本件申立を却下した原審判は失当だと謂うに在る。

惟うに共産党は吾国で公認せられている一つの政党であるから仮りに曾て其の機関紙「アカハタ」が其の刊行領布を禁ぜられたことがあつたとしても抗告人等の氏「赤相」の訓から推して「アカハタ」を連想し抗告人等が共産党に属するものと做し之を揶揄し嫌悪するが如きは甚しい謬見であつて識者の到底与みし得ないところであるけれども一件記録殊に抗告人等提出の疏明に徴すれば世上には斯る謬見から未だ脱却し得ない輩が相当多数にあつて抗告人等の氏「赤畑」の訓が「アカハタ」と相通ずる為に中学校在学中の抗告人等の幼弱な子弟は学友達から「共産党赤畑の共産党」と揶揄され登校を厭い学業の成績の低下を来し居り又抗告人等の長じたる子弟は其の為にのみ予て希望の就職を阻まれ辛じて他に就職し得ても其の職務の遂行に少なからざる不便不判を被りつつありて斯る状態が既に前説示の如くであつて抗告人等及其の同一戸籍内の者が「赤畑」なる氏を称する為に其の日常生活に少なからざる不便不利を被り延いて精神上の苦痛も甚大で斯る状態は今直には解除し難い事情に在る以上抗告人等の氏「赤畑」を抗告人等の母の実家の氏「吉田」に変更することの許可を求むるのは戸籍法所謂やむことを得ない事由に該当するものと謂うべきである。仍て本件抗告を理由ありと認め家事審判規則第十九条第二項に則り原審判を取消し主文の如く決定する。

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